〜はじめに〜

現在私がメインギターとして使用しているギター、「K-YAIRI BL-150RSB」。このギターについて、私のホームページを通じての問い合わせや、検索ページからリンクしてくる方が非常にたくさんいらっしゃいます。
このギターは、サザンオールスターズ・桑田佳祐氏が、主に2000年〜2002年頃、テレビ・ステージ等で多く使用していたアコースティックギターと同じデザインのものとなります。

桑田氏がメインで使用していた頃から時が経過しているにも関わらず、今もなお問い合わせが続いている事実から、いかに皆さんがこのギターに大きな関心を持っているかが伺えます。
また私自身、このBL-150RSBをメインギターとして使用しつつも、まだ知らないことや知りたいことがたくさんあり、いつかそれらを解決したいと思っていました。
松尾浩氏と ヤイリギターにて
そこでこの度、このギターの製作に大きく携わった、(株)ヤイリギターのギタークラフトマンで、アーティスト担当の松尾浩氏に取材をさせていただきました。
そして今回の2時間近くに渡る取材インタビューの中で、私自身も、また松尾氏自身も知らなかった事実がいくつも出てきたのです。

この取材を元に、ここで改めて「K-YAIRI BL-150RSB」についての解説をまとめてみました。このギターの話だけにとどまらず、意外なエピソードなども多く知ることができましたので、それらを含めお楽しみいただけたらと思います。

取材協力:(株)ヤイリギター http://www.yairi.co.jp/
Special Thanks:ヤイリギター・松尾浩様
取材日:2007年9月4日(TUE)


〜桑田氏とヤイリギターの出会い〜

1990年、サザンオールスターズ「真夏の果実」のレコーディングが進む中で、桑田氏とヤイリギターとの出会いがありました。最初、桑田氏からのリクエストは「とにかくヤイリらしい音のするギターを持ってきて欲しい」とのことでした。そこで当時ヤイリで製作された新しいシリーズで、ドレッドノートの大きいボディサイズのギターを用意。それが「YD-66E」という、ヤイリの海外輸出用ブランド『ALVAREZ.YAIRI』の中のシリーズでした。初めてヤイリのギターを手にした桑田氏はこのギターとのフィーリングが合ったようで、そのままレコーディングに使用することになったのです。松尾氏はこれについて、「随分大きなギターを好む方なんだな」と思ったそうだ。


〜桑田氏のヤイリギター変遷〜

その後しばらくして次なるリクエストが松尾氏に届く。「今度はもう少しコンパクトで持ち運びがしやすく、またそれでいて枯れたよく鳴るギターを手配して欲しい」とのことだった。1991年から92年にかけての頃です。当時のサザンの動きとしては、中国での公演を見据えて活動していた時期。桑田氏個人でも「スーパーチンパンジー」というユニットで、フットワークの軽い活動もあることから、より動きの取りやすいギターを好んだと思われます。
その頃ヤイリでは新シリーズ「エンジェルシリーズ」が開発されていました。そこでリクエストに応えるべく、「RF」「TF」の2種類を用意。実際に弾いてもらい、気に入った「TF」の1号機を桑田氏が使用することになりました。サイド・バックはソリッドのローズウッド。またそのギターは、そのまま次のアルバム「世に万葉の花が咲くなり」のレコーディングでも使用されるようになります。

「スーパーチンパンジー」にて桑田氏と共に活動し、その後現在に至るまで、もはや欠かせない存在であるギタリスト・小倉博和氏はその頃、「桑田氏と共に演奏する機会が今後も増えるので、是非とも桑田氏とお揃いのギターでステージに並べるようにしたい」とヤイリと相談していた。またサザンのギター・大森氏もヤイリギターを気に入っていた時期で、ヤイリは小倉氏と相談し、先に登場した「RF」を使用した色違いモデル(赤・グリーン・ナチュラル)を製作しました。これらのRFも、「世に万葉〜」のレコーディングに使用されたと思われます。
★「RF」に関するエピソードはHP「小倉博和〜No Guitar, No Life.〜」のギター紹介ページにも詳しく掲載されているので、こちらも是非ご参照ください。

アルバム「世に万葉の花が咲くなり」を引っさげて行った全国ツアー「歌う日本シリーズ」では「YD-50N」を使用(このギターはその後、KIRIN「ジャイヴ」の缶コーヒーCMでも弾いていました )。この「YD-50N」もヤイリの海外輸出用ブランド『ALVAREZ.YAIRI』で、このギターはCM登場後に反響が大きくあり、急遽国内用としても発売されました。


その後暫くしてから、今度は「ヤイリで一番パワーのあるギターを使いたい」とのリクエストが出される。93年頃から桑田氏は、J-45やDOVEなど、GIBSONをよく弾いていた時期でもあり、おそらくヤイリを弾いていた反動がここにきて出てきたのかと思われます。そこでヤイリは、当時一番大きなモデルで「GY-2E」(ALVAREZ.YAIRI)のギターを用意。GIBSON・J200を思わせる大きなボディで、カッタウェイ仕様、カラーはイエロー。このギターは93年、サザンオールスターズの全国スタジアムツアー「ザ・ガールズ万座ビーチ」で使用されました。

すると今度は「パワーは確かにあるが、これでは大きすぎるので取り回ししにくい」「自分にとって大き過ぎず、小さ過ぎず、弾きやすくてパワーのあるものは何かないだろうか」と桑田氏がリクエスト。GIBSON J-45やDOVEも使えるが、さらに自分に一番しっくりくるサイズのギターを、この時期桑田氏は探していたようです。


〜「BL-150SP」桑田モデルの誕生〜

「RF」「TF」も確かにいいギターだが、使える曲と使えない曲が出てくる。その中で桑田氏は「オールマイティに使用できるギターを」また「ギター一本で弾いて歌えるようなものを」探していました。
1999年、それらのリクエストに応えるべく、ヤイリがギター製作にかかりました。またその年の秋に行われる楽器フェアへの出展も兼ねての、新モデル製作となったのです。
後々にはフジテレビ系「桑田佳祐の音楽寅さん」(2000年10月〜)内でもギターが使用されるとのことで、どんな状況でもマイクでしっかり音が拾えるような、とにかく生音がしっかりと鳴るもの、というのが必須条件でした。桑田氏のリクエストや、桑田氏のギター担当者との綿密なる打ち合わを踏まえ、ボディサイズはエンジェルシリーズの「BL」を使用することに決定。さらに桑田氏のイメージに合わせ、さまざまな装飾を施し、高級感のあるデザインに。そして仕上げには、桑田氏への敬意と、彼のものである証として、ヘッド部分に「K・K」のイニシャルを刻んだネームプレートを飾る。

1999年の秋。ここに、桑田モデル「BL-150SP」が完成したのだ。
完成した桑田モデルは、楽器フェアに出展後、桑田氏の元に届く。「音の鳴りといい、ボディサイズといい、最高のギター」と絶賛。その後、テレビ番組や宣伝用写真などに登場し、多くの人の目に触れるようになった。


〜「桑田モデル」の仕様について〜
桑田氏に渡された「BL-150SP」は、上述のように「桑田氏のために製作られたもの」である。よって、その製作プロセスはもちろん、製作に使用された材料も、ヤイリの職人によって厳選されたものによる。

元となるギターは、エンジェルシリーズの「BL-150K」。トップはソリッドのスプルースを使用。そしてサイド・バックは、ソリッドのローズウッド。BL-150Kのサイド・バック素材は、通常コア材が使用されることになっているのだが、パワーのある音を追求するということで、ローズウッドを採用した。またローズウッドでも、さらに選び抜かれたものを使用しているとの事。カラーは、桑田氏の好きなブラウンサンバーストに決定。
フィンガーボードのポジションマークは「このギターには、これがピッタリくる」と、ヤイリから提案。桑田氏側もそのデザインに即OKを出したそうだ。元々はバンジョーからのデザインを引用したものである。普通ではやや派手に見えるこのポジションマークも、このギターでは最高のバランス感覚で存在している。このあたりのヤイリの“閃き”がすごい。

ボディ周りの飾りつけは派手に行った。キラキラと輝くインレイは、さらなる高級感を醸し出す。もちろんあくまでもステージの主役は桑田氏であり、ギターではないので、その事を踏まえた上で「ギターは派手に、かつ桑田氏が引き立つように」というバランスの中で、デザインは決められていった。さらにヘッドに付けられたネームプレートのイニシャルは金の文字で飾られた。そのプレートは、通常なら黒にするのが多いところ、このギターではパールホワイトを使用することで、その高級感を確実なものにしている。文句なしのデザインとなった。

型番が「BL-150SP」とあるのは、このギターが桑田氏のために作られた唯一無二のギターの証である。おそらく「BL-150のスペシャル」というような意味と取れる。
よって、桑田氏所有の「BL-150SP」と、一般に出回っている「BL-150RSB」は、厳密に言えば違うものになる。

(混乱を避けるために、これ以降は「桑田モデル」の表記を使わず「BL-150SP」「BL-150RSB」と、書き分けていきます。)

「BL-150RSB」は、桑田氏のギター(BL-150SP)を写真やステージで見たファンから、問い合わせが殺到し、それを受けてヤイリが一般向けに製作したものとなります。
「音楽寅さん」や「ROCK AND ROLL HERO」の宣伝用写真などに度々登場していたこのギター。多くの反響があったことを桑田氏側に伝えると、大変喜んでいたそうです。そしてこのギターのモデルを出すことについても快諾してくださり、晴れて「BL-150RSB」が世に出されることとなりました。

「BL-150SP」「BL-150RSB」、見た目には全く同じですが、その違いはサイド・バックの素材。「BL-150RSB」で使用されるローズウッドはソリッドではありません。おそらくこれがソリッドになると、恐ろしく値段が跳ね上がってしまい、一般モデルとしての発売が出来なくなるでしょう。しかしそれでも納得の音色を出すのがこのギターのすごいところです。それ以外に、大きな違いはありません。
また私の所有している「BL-150RSB」には、ネームプレートが付いていますが、これは後から付けてもらった物で、標準ではネームプレートは付いていません。
「BL-150RSB」の型番の意味は、『BL-150(の型で)R(=ローズウッド材を使用した)SB(サンバーストカラーのギター)』ということになります。


〜KK-46とは〜

桑田佳祐全国ツアー「けいすけさん、色々と大変ねぇ。」のツアーが行われた2002年、そのステージで使用されていたのが「KK-46」。コンサートツアーパンフにも写真付きで紹介されていました。こうして見ると、あのデザインのギターは「BL-150SP」「BL-150RSB」「KK-46」の3つが存在することになります。その違いは何なのでしょうか。

そもそも「KK-46」というのは、ヤイリギターのチーフ・クラフトマンである小池健司氏が、完成までのすべての作業を一人で行なったものを指します。KKは桑田佳祐氏のイニシャルでなく、小池健司氏です。
1997〜1998年にかけて、プロのアーティスト諸氏からの注文依頼を受けて製作を開始したカスタムモデル、これがKK-46。つまりKK-46というのは、桑田氏が持っているもの以外に他のアーティストのギターにも存在しています。(ちなみにKK-46の一号機は長渕剛氏のギター)

「BL-150SP」の流れを組んで、今回は「同じデザインで、より軽もの」をテーマに「KK-46」は製作されました。そこでボディ素材として、サイド・バックはローズウッドよりも軽いソリッドのマホガニーが選ばれました。このマホガニーも、より軽量であるアフリカ産の『ガボンマホガニー』という種類を使用しています。桑田氏のギターには「KK-46.No81」のナンバーが与えられています。

デザイン上の大きな違いは、ブリッジ部分に施された装飾です。
またギター内部に目を向けると、「KK-46」にはピックアップとして「FISHMAN PREFIX PRO」が搭載されています。
さらに「KK-46」は、文字通り小池健司氏一人で作業を行うものです。他の職人では真似できない“こだわり”として、ボディ内側に張られているブレイシングも、小池氏独自のものと思われます。


〜BL-150SP・KK-46・BL-150RSBにまつわるエピソード〜

「BL-150SP」「KK-46」いずれも桑田氏は、その完成度の高さから、かなりお気に入りのギターとなっている様子で、特にBL-150SPなどは自宅に持ち帰って、作曲に使うなど好んで弾いているらしい。またリペアでギターがヤイリに帰ってきたときも、無駄な傷がほとんど無く、KK-46製作者の小池健司氏いわく「大切に使われているのがよくわかる」そうだ。

「BL-150SP」に搭載されているピックアップは、「FISHMAN NATURAL U」。元来、ボディに大きな穴を開けるのが好きでない桑田氏は、ピックアップ搭載においても出来る限りギターに傷をつけない方法でのピックアップを選んでいた。
94年、桑田佳祐ソロツアー「さのさのさ」の頃、ステージ上で弾いていたGIBSON J-45には「SUNRISE」のマグネットピックアップが搭載されていたが、その後95年、ミスチルとコンビを組んで行ったライブ「LIVE UFO」からはJ-45のピックアップにFISHMAN NATURAL Uが使われている。このライブのリハーサルに立ち会った松尾氏によると、1曲目ジョンレノン「MOTHER」を歌う時に使用するJ-45のピックアップ搭載を松尾氏が行い、リハーサルで弾いた桑田氏が「ボディの鳴りがよく再現されて、とてもいい」とFISHMAN NATURAL Uを気に入ったことから、それ以降“ボディ鳴り重視ギター”のピックアップとして「FISHMAN NATURAL U」を好んでいる様子であるそうだ。

通常アーティストの使用するギターが一般モデルとして発売になるパターンとして、「ギタリストが使用するギター」もしくは「ギター弾き語りが中心のアーティスト」のギターが選ばれることが多い。桑田氏はヴォーカリストであるにも関わらず、彼のモデルが好評を博すのは非常に稀なケースである。
ヤイリギターにおいても、アーティストモデルとしては「長渕剛」「矢井田瞳」各モデルに並ぶ、大ヒットのギターとなっている。しかし特筆すべきは、前2氏のギターは10万円前後のモデルに対し、20万円近くするBL-150RSBは言わば「高級モデル」で、それがこれだけの人気となるのは、過去にも例が無いそうだ。

ヤイリでアーティストモデルが一般発売される場合、多くのパターンが、まず「KK-46」つまり小池健司氏が手がけたギターをアーティストが使用していて、そのギターをモデルとして一般用が発売されるものだが、今回の場合は「BL-150SP」が先に製作されていて、その後に「KK-46」が製作されたという、これまた稀なケースとなった。

2002年の桑田佳祐ソロツアー「けいすけさん、色々と大変ねぇ。」のコンサートパンフレットに掲載されている「KK-46」の解説によると、このギターは「ドームツアー用に製作され・・・」とあるのだが、ここに新たな事実が判明。
「BL-150SP」が大変気に入った桑田氏から、ヤイリギターに「このギターを原さん(原由子氏)に弾かせたいので、これと同じデザインのままで、女性でも持ちやすいように、もっと軽いギターを作って欲しい」との注文を受けて「KK-46」が製作されたとの事。そうして出来上がったKK-46だが、こちらも出来上がりの良さから、結局ドームツアーでも使用されることになる。
その後2006年に行われた「Act Against AIDS 2006 桑田佳祐「星条旗よ永遠なれ!?〜私のアメリカン・ヒーローズ」にて、原由子がゲスト出演、桑田氏・斎藤誠氏と共にPeter, Paul & Mary「Cruel War(悲惨な戦争)」をアコースティックギターで披露しているが、この時に原由子氏が弾いているのは何故か「KK-46」でなく「BL-150SP」であった。ともあれ、「KK-46」は実のところ「原氏のために桑田氏が用意した」ギターだったのだ。


〜終わりに〜

今回の取材を通じて、「BL150RSB」に関する様々な真実を知ることが出来ました。そしてそれらを知ったことで、自分のギターにより一層の愛着がわいてきました。今後も長い付き合いになるギターであることは間違いありません。
この解説を読んで、皆さんには少しでもこのギターに興味を持っていただけたら幸いです。

今回は松尾氏の多大なる協力の下、ここまでの内容をご紹介することが出来ました。大変お忙しい中、取材に応じていただいた松尾氏に、文末ながらこの場を借りて厚く御礼申し上げます。


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